このテキストでは、中世ヨーロッパのテクノロジーしか持っていなかった マグナ・ヴェリタが、いかにしてサイバーテクノロジーを手に入れ サイバー教皇領を名乗るに至ったか、を解説します。
この手の輩は世紀末ともなると必ず出てくるので、 普段だったら黙殺される程度でしたが、 今回だけはちょっと違いました。 ボルネオでは死体が列をなして歩き、 ニューヨークでは怪しげな宗教のトカゲ男達が恐竜を駆って攻めてきたのです。 しかも、聖書の言葉を「非科学的」としてきた近代テクノロジーが、 ボルネオやニューヨークではもはや通用しません。 こういう状況下では、「この世の終わり」の言葉が異様な説得力を持っています。
やがて宣教師達の予言通り、 今度はイギリスに「バビロンの龍」や「魔女」はじめとする 悪魔の軍勢が攻め込んできました。 社会不安がどうしようもなく増大し、 すがる対象を無くした人々は宣教師の下へと走ります。 こうした民衆に宣教師達は、テクノロジーに頼ることが罪であると諭し、 アーミッシュのごとき質素な生活を命じます。 ワープロやパソコンを広場に積み上げて燃やしてしまう(焚計算機)、 など過激な行動にも出ました。
もうおわかりでしょうが、これらの宣教師達は、 教皇ジャン・マルローによって送り込まれた、マグナ・ヴェリタの工作員たちです。 マグナ・ヴェリタは、中世暗黒時代のヨーロッパのまま テクノロジーや社会の進歩が止まってしまった世界です。 もう400年以上もの間、教皇と教会による神権政治が続いており、 あらゆる``進歩''を止めています。 新たな科学技術や社会的進歩を生みだそうとする改革者は、 全て異端として処刑されてきました。
マルローは当初、 このマグナ・ヴェリタのアクシオムをそのまま地球に持込み、 テクノロジーも社会も中世暗黒時代に逆行したレルムを作ろうと考えていました。 そのため、地球のハイテク製品を、全て排斥するつもりだったのです。 \section*{戦争は続き、世界の終わりが始まった} イギリスにアイルの軍勢が攻め込んでから数週間後、 いよいよマルローは南仏の古都アヴィニヨンに メールシュトローム・ブリッジを落します。 アクシオムがフランスに流れ込み、 ここにマグナ・ヴェリタのレルムが確立されました。
マルローは、スティリーの強度を調節して、 レルムの境界にとんでもなく熾烈なリアリティ・ストームを吹き荒れさせました。 このストームに巻き込まれた者のほとんどは死んでしまい、 かくしてフランスは外界から隔絶されることとなります。
さらに、マグナ・ヴェリタのアクシオムのために、 近代的なテクノロジーの産物は全て動作を停止してしまいました。 電気も自動車も一切働きません。 これにより経済システムは完全に崩壊し、 食糧輸送もままならない状況となりました。 食糧を自給できる田舎は助かりましたが、 パリのような人口密集地では大量の餓死者が出ました。 また、AIDSなどの病気が大流行し、医薬品の欠乏も深刻になります。 情報システムも崩壊したため、流言飛語が横行し、 まさにフランスは「世界の終わり」と呼ぶにふさわしい状況に陥ってしまいます。
この世紀末的状況の中で、マグナ・ヴェリタの宣教師達は、 いともたやすく人々を改宗させ、支配して行きます。 民衆の目の前で奇跡を起こしてAIDS患者を何人か癒してやれば一発でした。 実はこの新種のAIDSウィルスをばらまいたのは、 他ならぬ宣教師達自身なのですが。
そしてマルローの侵略は、いよいよ最終段階を迎えます。 「新たな救世主である教皇が天からアヴィニヨンに降臨し 人々を世の終わりから救うであろう」と宣教師達は予言しました。 黙示録によると、 終末には「反キリスト」と呼ばれる悪魔の手先が現れ、 人々を誤った教えに導く、ということになっていました。 そこで宣教師達は、バチカンのローマ法王を反キリストに仕立て上げ、 マルローこそ真の救世主である、というシナリオを書いたのです。 コトが計画通り進めば、 マルローはアヴィニヨンに集まった民衆の目の前で 天から伸びるブリッジより降り立ち、 マグナ・ヴェリタと同じ中世暗黒時代の教会支配体制を フランスにも打ち立てるはずでした。
ところが
しかし、ゴーントマンを倒した代償は小さくはありませんでした。 トルウィンに従ってきたドワーフ達の多くは殺され、 またメイラも左手を破壊されてしまいます。 サイバー化された左手でしたから肉体的にはそうダメージでなかったのですが、 弱冠16歳の少女には精神的に大きなトラウマとなります。 今までの戦いの疲れもどっと出て、 まあどどーんと落ち込んでしまうわけですね。
このときジルが彼女を励ましまして、 カダンドラの技術資料を集めたデータプレートを作成することを勧めます。 このデータが地球人のために役にたつだろうとか思ったんでしょうか。
現実が夢となり夢が現実となる世界、ドリームタイム。 ここでの戦いの最中、メイラのデータプレートが、 マルローの背中の傷にぶっささることになります。 このときメイラの持っていたジャズがこぼれ、傷口にふりかかります。 ジャズの作用によってマルローの神経がデータプレートと結合され、 カダンドラのテクノロジーがマルローの頭の中に流れ込んできます。
この対決は、「名付けざるもの」の乱入、という大事件によって、 決着のつかぬまま終わることになります。 名付けざるものが、このドリームタイム上での戦いに気付いてやってきて、 ついにコズムヴァースの所在を知ってしまったのです。 たちまち名付けざるものはコズムヴァースを食らい尽くそうとし、 全コズムヴァースは存亡の危機を迎えます。 この危機に大いなる奇跡が起こり、インフィンヴァースが誕生するわけですが、 それについてはまた別に。
しかし、決着がつかないとは言っても、 いくつかの夢は叶えられました。 トルウィンの夢は現実となり、ユーソリオンはアーディネイの体から放逐されます。 そしてマルローがデータプレートから見た夢、 人間とマシーンとが融合して今までにないユートピアを実現する、という夢も、 また現実となったのです。
フランスの誇る世界随一のビデオテックス網"テレテル"は、 このアクシオム・ウォッシュによって、 サイバースペースを内包したネットワーク ゴッドネット へと変身を遂げます。
ドリームタイムから抜け出てアヴィニヨンへ至るブリッジの上に立ったマルローは、 世界が全く変わっていることに気付きます。 そして待ち受ける観衆に向かってこう叫びました。
「今より新しい時代が始まる。我はサイバー教皇なり!!」
しかし一方で、 それまでテクノロジーを排斥し続けてきた教皇が 一転して「テクノロジーと宗教との融合」などと言い出したのですから、 これは当然反発を呼びます。 それまで一枚岩であった教会体制も大きくぐらつき、 教皇の支配力も以前ほどの完全さを失う結果となりました。
都市部では、教会の宗教支配から離れたギャング達が多数出現し、 アナーキーに犯罪活動を繰り広げています。 行き倒れの死体からサイバーウェアを回収して闇市場で売り捌く レッガーと呼ばれる連中もいます。 さらにゴッドネットには教会や銀行のコンピュータに侵入して データをいじろうとするデッカー達が溢れていますし、 異端審問官達は休む暇がありません。
依然教会に忠誠を誓っている人々も、また戸惑っています。 サイバーウェアにしろゴッドネットにしろ、 まだやってきてから三カ月しかたっていないのです。 サイバーウェアの中には動作が確実でないものも多いし、 ゴッドネットのサイバースペースの中には 探査すら十分行なわれていない領域もかなりあります。
そんなこんなで、現在サイバー教皇領は、宗教的狂気と混沌の渦のただ中にあります。 数十万の僧侶を擁する巨大な官僚機構サイバー教皇庁は、 低い社会アクシオムのために非効率的ではありますが、 宗教的弾圧によって人々を無理やり支配しています。